こんにちは。川中努です。
10月ももうすぐ終わり。いよいよ今年も残すところあと2ヶ月ちょっとになりましたね。自分自身に納得のいく1年の締めくくりができるように、残りの2ヶ月をラストスパートをかけていきたいと思いますDASH!

さて先日、以前所属していた「盛和塾山陰」の勉強会に参加させていただきました。

講演されたのは、日本の古本市場ではシェア70%を占めるブックオフ創業者で、現在は「俺のフレンチ」、「俺のイタリアン」などのブランド名で約20店舗を展開する俺の株式会社代表取締役社長・坂本孝さまでした。



「俺の」シリーズのレストランは、ミシュランの星がついた一流のシェフたちがつくる通常なら1品1万円以上する料理が10分の1程度の値段で食べることができ、大繁盛、長い行列ができることで有名なお店です。ボクも以前東京出張に行った際に予約しようとしましたが、取ることができませんでした。

今回、米子のダックス株式会社の会長で盛和塾山陰の代表世話人の大畑さんにご招待していただき、今や飛ぶ鳥をも落とす勢いの坂本さんのお話を伺えるということで非常に楽しみにして行きました。

講演会の内容に入る前にまず坂本さんの略歴を紹介します。(出典:Wikipedia)


<略歴>

1959年3月 山梨県立甲府第一高等学校卒業。
1963年3月 慶應義塾大学法学部卒業。
1963年4月1日 父の経営する精麦会社、坂本産業に入社。
1972年 オーディオショップの経営に乗り出す。
1977年 オーディオショップの経営に失敗し店じまい。
その後、中古ピアノ販売業、遊休地再開発プロジェクトで経験を積む。
1990年5月 今までにない中古本販売のブックオフ直営1号店千代田店を神奈川県相模原市に開設。
1991年8月 ブックオフコーポレーションを設立、社長に就任した。
2006年6月24日 同会長に就任する。
2007年6月19日 会長を辞任。
2009年 バリュークリエイト株式会社設立。
2012年11月 俺のフレンチ・俺のイタリアン株式会社(現・俺の株式会社)設立 、代表取締役社長。


以下に坂本さんのお話の内容を記しますが、最初にお断りしておくのは、この内容は当然ボクの主観が入っているものですので、坂本さんが同じ意味でおっしゃっていないこともあるということはどうぞご了承くださいね。

【波乱万丈の経営者人生】

坂本さんは、お父様の事業を手伝っていらっしゃいましたが疑問を抱き、30代で起業されました。しかし、オイルショックの最中に信頼していた部下が資本金3千万円を持ち逃げしその事業は立ち行かなくなりました。

その後は、「部下は当然雇用主の指示に従っておけば良いのだ」と全く信用せず中古ピアノ販売業などを繰り返していましたたが、どの事業も一定の規模で頭打ちになったとのことです。


【盛和塾との出会い】

ある時、盛和塾塾長の稲盛和夫さんの書かれた『心を高める 経営を伸ばす』を読まれた坂本さんは、「この人に会って話を聴いてみたい」と思い盛和塾に入塾されました。

50代で古本業を興していましたが、神田の古本屋さんからは「この商売は目利きになるまで相当な時間を要する」と言われたときに「そんな時間がかかったら俺の人生設計が立たないじゃないか」と思い、誰にでも簡単に古本の買取ができるオペレーションをシステム化されました。

ブックオフではパート・アルバイト(PA)従業員でも買い取りができるようにその作業を平準化。単純な仕組みであるため、2週間でPAがオペレーションができるのと同時にお客さまがその仕組みを知っていただいたことが成功の鍵だということです。

今やブックオフは日本の古本マーケットの75%のシェアを占めているということです。しかし、その理由は決してシステムやマニュアルではないということです。

以前、アーネストヤング主催のハーバードビジネススクール「ベンチャーオブザイヤー」を受賞した際アメリカ経営賞。マイケル・ポーター教授から、PAの素晴らしさでその競争優位性を評価されたとのことです。

その秘訣を以下のエピソードと伴にお話し下さいました。

ブックオフでは年に一度、約100店舗の店長が各店から一人推薦するPAをグアムに招待するらしいのです。

到着後、まず最初に行うセレモニーは店長が書いた手紙を読むらしいです。「何故私(店長)があなた(PA)を店を代表して、このグアムに行ってもらおうと思ったのか。どれだけ私があなたを信頼し評価しているのか。」それを聞いた途端にみんなが号泣するそうです。

そして、飲めや、食えや、踊れの3日間が始まります。驚くことに、社長である坂本さん自らがまずは率先して“ヒゲダンス”を踊るのです。

「社長がバカをするなら部下もバカになれる。」

坂本さんとPA100人の密かな交流、距離を縮める場3日間が終わり帰るときにはみんな家族以上に仲良くなっているらしいのです。

「人財育成にマニュアルなどはない。」とおっしゃっていました。


【再び波乱の人生へ】

しかしそんな坂本さんですが、部下の不正経理が原因で会長を辞任されました。そんなとき、稲盛さんに京セラの東京オフィスに呼び出され、「キミは盛和塾で一体何を学んできたんだ?!」ともう少しでノックアウトされかけるくらい激しく叱られたということです。この時ほど稲盛さんの愛情を感じたことはなかったらしいです。

その後、ブックオフの株を売却しキャピタルゲインでハワイのコンドミニアムで優雅に暮らそうとしていたところ、稲盛塾長が日本航空の再建に乗り出すという話を聞きます。

「自分はこのままでいいのだろうか?」

そして経験のない飲食業に携わり始めました。坂本さんは東京のミシュランの星がついた飲食店を食べ歩かれました。寿司屋には特に詳しいとのことです。

ご自身は自己紹介をする時にこうおっしゃるそうです。「飲食業をしています。苦手な料理はフレンチとイタリアンです。」

「ワインも赤か白かロゼくらいの違いならわかるよ。」とおっしゃっていました。しかし、この業界のことを知らないのが、ボクには現在の「俺の」シリーズの原動力になっているような気がしてなりません。


【俺のフレンチ開業】

俺のフレンチはミシュラン並みのレストランで原価をたっぷりかけて、回転数(つまり1日の来客数÷店の席数)3回転で損益分岐点売上高、そして経常利益率10%を出せるビジネスモデルを、坂本さんが頭の中で思いついたものだということです。

そして、そのビジネスをスタートするために必要なのはミシュランの星がついたレストランでの勤務経験があるシェフだということで、都内にある飲食業に特化した人材紹介会社を集めたということです。

「ミシュランのシェフを連れてきて欲しい。」

ボクも東京でのサラリーマン時代に東京の人事の仕事をしていたので分かるのですが、人材紹介を受け採用すると年収の20~30%をフィーとして支払います。俺の株式会社では、年間に支払うフィーが1億2千万円ということです。しかし、坂本さん曰く「これは経費ではなく投資である。」

フレンチシェフをたくさん採用した後に、さてこの人たちをどう使うかと考え、そこからが坂本さんのノウハウ。彼らのキャリアパスは、お金を貯め海外に渡りミシュランのレストランで働き、スーシェフになり帰国して料理長を夢見るというものです。

しかし折しも、俺のフレンチを開業するときはリーマンショックからの不況で思い通りにいかなくなった時期とも重なりました。ホテルの2番手になっても自分の満足するような仕事はさせてもらえません。

そんなタイミングで彼らを採用しようと一生懸命だった坂本さんは、常務取締役の安田さんと役割分担して彼らを口説くということです。安田さんは証券会社で各業界の成功モデルを知り尽くしている。そして坂本さんは、高級寿司店にシェフとシェフの奥さんを呼び、また口説く。口説くというというよりも、切々と将来の夢を語り、理念の共有する訳です。これは坂本さん独自のノウハウであると思います。

「最高の料理人は素晴らしい人格を持っている。それはどの業界でも同じ。」

しかし人格者であるだけではなく、彼らには“左手にソロバン”(=損益計算書)を持ち、右手に“聖書”(=理念)を持つことを求めます。驚くことに俺の各店では、仕入れ、売価設定などは全て店長裁量。損益計算書は全店公開。6店舗の俺のフレンチ同志がライバルとして戦っているのです。

「セントラルキッチンは決して作らない。」


俺のフレンチ銀座店


【生涯現役】

現在72歳の坂本さんのこれからの夢を語られました。

まずは、来年の秋にニューヨークに150坪の「俺の割烹」をオープンする予定だそうです。いきなり世界大会で優勝を狙う。店内には日本食にジャズ。ジャズを入れるとワインの売り上げが違うそうです。

そして人財教育に関しては、来年採用する辻長調理学校卒業生20人採用予定。銀座本社ビルの地下に坪1万場所を借りて人財育成学校を開設されるとのことです。

2020年、東京で開催されるオリンピックの前年の2019年に“食のオリンピック”を開催したいという夢をお持ちだということです。そのとき、坂本さんは79歳。

「この仕事を始めたときから、おもちゃ箱をひっくり返したみたい。後へは引けない」

生涯現役です。

【お話を伺って】

坂本さんのお話を伺って感じたのが、

“波乱万丈な人生と卓越したビジネスセンスの持ち主”であることと“逆境をバネに不屈の精神で、次のチャンスを呼ぶ”方であること。

ブックオフの会長職を追われ、あのままハワイで悠々自適の人生を送ることも充分できたのに、敢えてまた逆境にご自分を置かれる。

恐らくそれは坂本さんが心の奥底にある価値観で、生涯現役でありチャレンジャーであり革命家であることを求めておられるのではないかと思いました。

価値観とは言い換えるならば“欠乏感”でもあります。人は自分に足りないものを手にしたくなります。

「人は価値を置く分野で才能を発揮する」

稲盛塾長をして「あなたは商売の天才だ」と言わしめた、類まれな商才をお持ちな反面、その才能を発揮する場をいつも欲していらっしゃる。

今や古本業界の最大手となったブックオフを創り出すという光と、その会社を去らざるを得ない境遇を引き寄せた陰の部分。しかし、はっきりと思うのが、そのマイナスがなかったら今日の「俺の」シリーズは決してなかったでしょう。そこへ行列をなして行き楽しむお客さまの笑顔もときめきもなかった訳です。

プラスとマイナスは必ずセットになって存在し、互いが補完し合いながら次のものを創り出すということを坂本さんのご経験を通して学ばさせていただきました。

今41歳のボク自身、自分の持つ価値観に従いこれから経営者として人として、どのように使命を果たしていこうかと改めて考えることができました。

坂本社長、改めてありがとうございました!



懇親会でのご様子



塾生より花束の贈呈